「3倍の法則」を知れば、人間関係の未来は明るい?石川善樹とイノベーションを考える<アイデアを生む方程式(後編)>
2020年7月29日、オンラインイベントseek∞が開催された。セッションでは予防医学研究者の石川善樹氏が登場。「今こそ名刺の時代?アイデアを生む方程式」というテーマで清水俊宏(seek∞チーフビジョナリスト)とトークを繰り広げた。イベントリポートの後編をお届けする。(前編はこちら)
人のつながりにおける「限界」
清水:今回のセッションのテーマは「アイデアを生む方程式」で、それに合うような数式や図がないか石川さんに事前に聞いたところ、この「3倍の法則」という資料を送ってくださいました。説明していただけますか?
石川:僕ら研究者の仕事って、未来の可能性を提示するということと同時に、どこに本質的な限界があるのか、「可能性」と「限界」を示すということも重要な仕事なんですよ。
これは人のつながりにおける「限界」を示しているんですね。人間の脳が爆発的に大きくならない限り、どれだけテクノロジーが発達してもこれは変わらない。
横軸が人数で、 5人から始まって大体3倍ずつになっていると思うんですよ。
一番右の5000人というのが、直接民主主義の限界と言われているんです。一人の人間で民主的に運営できる限界。だからワンマン社長の限界が5000人。
清水:5000人を超える会社だと造反者などが出やすくなる訳ですね。
石川:パナソニックの松下幸之助さんが有名な言葉を残していて、5000人くらいまでだったら自分の背中で引っ張れるけど、社員が1万人、10万人を超えてくると経営者にできることは祈ることだけだと。そこは直接民主主義の限界を超えちゃっているんだと思うんですね。
Facebookの友達の限界人数って5000人なんですよ。それも多分ここから来ているんだと思います。
左に行くと、顔と名前が一致する限界、もちろん人によって違うんですけれども1500人くらいが限界だと言われているんですね。
多分年賀状を送ることができるのも1500人くらいが限界だと思うんです。これ以上だと「誰だったかしら?」となるんだと思うんですね。
500人がたまに会う人達で、150人が一緒にプロジェクトできる限界と言われています。これは古今東西そうなんです。
今でも会社の部署が150人を超えると二つに分けましょうとか、古代ローマでも兵士の部隊が150人を超えると二つに分けましょうとか。
さらに左に行くと、とても仲良い人は古今東西5人くらいなんですよ。正確に言うと3~7人と言われているんですけれども、これはテクノロジーが発達してもそうで、これも Facebookの研究でとても頻繁にやりとりしている人って、大体平均すると5人くらいなんです。
これはテクノロジーが追いついていないんじゃなくて人間の脳の限界なんですね。
これをビジネス文脈で言うと、まず最初に目指すのは150人なんですね。どう150人のチームを作るのか。多いことはいいことだみたいな発想があるんですけれども、人数が多ければいいというものではないんです。
この図はちょっと前に出たもので、「イノベーションはどういうチームで起きていますか」という研究です。
テクノロジーとか、研究とか、いろんな分野におけるイノベーションを調べて、それをどういうチームで行ったのか調べたものなんですが、左の図を見てもらえれば明らかですよね(笑)
清水:髪の毛みたいですね(笑)
石川:これをとても簡単に翻訳したのが右です(笑)
イノベーションには2種類あると言われています。革新的なイノベーションと、改善的なイノベーション。
もし、改善を起こしたいのであれば大人数の方が適しているんです。大人数になればなるほど、どんどん論理的になっていくんですよ。そうすると細かいところの修正が効きやすい。
一方、過去の歴史を振り返っても、革新的なイノベーションはせいぜい3人から5人なんですよ。
僕らが誰もが持っている携帯電話は昔、アメリカのベル研究所で作られているんですけれども、その当初の人数も3人でした。飛行機なんて、ライト兄弟の2人(笑)
大体のプロジェクトは少人数でやっていて、だんだん大人数になっていくんです。
イノベーションを起こすチームの構成
清水:大人数になると、まとまらなくなっていきますもんね。「自分の経験上ダメだ」みたいなブレーキをかける人間がいたりして。
石川:そうなんですよね。「なんでそれやるんですか」と聞いてくる人がいたりとか。
清水:「とりあえずやっちゃえばいいじゃん」と動くのは、少人数の方がやりやすい。
石川:それから、革新的イノベーションを起こす少人数チームが、どういう構成になっているかを細かく見てみると、ベテランと若手の組み合わせであることが多いんですね。
普通、「新しいことやりましょう」と言うと、若手だけで組みがちですよね。
清水:若手を組ませて「どんどんアイデアを出せ」とか。
石川:そう。それって意外とうまくいかなくて、若手とベテランなんです。
アップル社でいうと、スティーブ・ジョブズというベテランと、ジョナサン・アイブというカッティングエッジな若手デザイナーですよね。
風の谷のナウシカも、ナウシカとユパ様。スターウォーズもそうですよね、大体ベテランと若手。うまく ベテランと若手がいる少人数のチームを作ると革新的なイノベーションを起こしやすい。
ビジョナリーチームを作るときには、若い清水さんみたいな方と、ベテランがいるといいと思うんですよね。
清水:名刺交換の文脈で考えても、ベテランが交換してくる名刺と若手が交換してくる名刺は違いそうな感じがしますね。
石川:大体ベテランは ベテランと会いがちですからね。
清水:そうすると、名刺の先でつながっている人も変わってきますね。
石川:ところで、昔どうやっていたのか分からないのですが、名刺って溜まっていくと捨てていたんですか?
清水:人それぞれですが、捨てている人もいましたね。引き出しにぐちゃっと入れている人もいました。それから、何冊もの名刺ファイルを並べている人もいましたね。
石川:名刺を「ただ溜めていく」ということは、今はやりやすくなったんですよね。
テクノロジーの発達で出会うハードルがすごく下がっているし、出会った後もコミュニケーションする手段が確保されているので、つながれる人数はすごく増えている。
そんな中で一軍・二軍・三軍を作っていく必要があるわけですよね。
清水:有名な会社だから一軍、オシャレな名刺だから一軍というわけがないですもんね。
石川:一軍は150人くらいがなれるんだと思うんですね。名刺交換のデータが溜まってきて、やっぱりAIがパパッと整理してくれないと、僕らの脳では処理できないですよね。
清水:社外でも「3倍の法則」に人間関係がうまくはまると、いいアイデアが生まれる可能性が高まりそうですね。
石川:そうだと思います。
清水:石川さんがいま一番探求しているものは何ですか?
石川:「ご縁のイノベーション」でしょうね。やっぱり僕らもご縁の中で生きているので、ご縁こそすべてと言うか。
出会いからイノベーションを生み出すだけではなくて、「ご縁のGPS」が誕生するということ。それが僕の求めていることです。